悔しさに悶えて、幾度眠れぬ夜を過ごしたか知れない。
幾度、神々に米氣〔さけ〕を捧げ、みずからも酔いしれたか知れない。
神々は黙したままだった。
それどころか、あの統君と名乗る女にばかり味方するかのようだった。
もう神々は頼りにならない。
神府長たるものだからこそ認めざるを得ない。
人の世のことは、人が何とかせねばならないことを。
「君たちも知っての通り、報せ事はわが神府に入ってこない。統府が、ひいては統君と名乗るあの女が握っている」
こうして、若造たちを秘密裏に神府に招いてまで相手をするのは気が進まないが、致し方ない。
「そこで、西方に学んだ君たちの知識、人づて、そして知恵を借りたいと思っているのだよ」
「光栄に存じます!」
若造の一団の代表が頬を紅潮させていった。
「いままで、われわれの西方遊学はさんざん馬鹿にされてきました。ですが、しかるべきお方、すなわち神府長猊下にはその価値がお分かりです。お役に立てるのでしたら何でもお申し付けください」
「君たちには期待しているよ」
「はい!」
若造たちは声をそろえて応えた。
何と愚かな小童たちだろう。
何と容易く手玉にとれることだろう。
評判通り、西方に学び、馬鹿になって帰ってきただけある。
だが、愚か者というのは使いやすい代わり、扱い方を誤るとこちらがけがをしてしまう、厄介な剣のようなものだ。
しっかりと手綱を握らなければいけない。
こうして褒めそやすのもそのひとつだ。
私が欲しいのは、知識でも知恵でも何でもない。
人づてと西方の武器だ。
民革軍からそれらを得た後は、この青二才どもはせいぜい雑兵として働かせればいい。
「しかし」
民革軍代表団の一人が、相変わらず頬を紅潮させながら口を開いた。
「われわれは孤軍奮闘を覚悟しておりました。ですが、まさか猊下が直々にお目にかけてくださるとは思いもよりませんでした」
「まあ、神府長としていまのところできることは、軍資金を授けることだけだがね」
「滅相もない!」
今度は代表の小僧が興奮して立ち上がった。
「猊下のお力添えのおかげで、西方の武器が手に入るんです。軍艦すら夢ではない。君主制打倒の悲願もすぐそこです」
私はふたたび礼をいい、話をまとめにかかった。
いい加減この茶番に疲れてきたし、何より時間と精気を無駄にしたくなかった。
「神府から君たちには軍資金を授ける。また、民主革命軍と神府、二者から統府を崩しにかかる。君たち民主革命軍には、そのための具体的な働きをしてもらう。西方諸帝国、なかでも羅纏〔らてん〕帝国とよく連絡を取り、武器の調達など迅速に協議を進め……」
今回は秘密会議と銘打っているが、民革軍からの表敬訪問に近い。
いまはこの者どもを有頂天にさせてやればそれでよかったので、取り決めもそこそこに、護衛をつけて民革軍の一団を帰した。
わざわざ貴族の小間使いの装束まで着させて、神府の雑用係を装わせて。
私は、何があってもあの女を許すつもりはない。
何が父王との決別だ。
何が統君だ。
この国の民たちは知らない。
『善政』の裏で、ほぞを嚙み、悔し涙を流す者たちが大勢在ることを。